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青春ものの小説ブログです

緋色の領分 9

「これから先は、淘汰だな。それは内も外もだ。」

と、試合開始前に冷たい目をして赤司は言った。赤司の提案に緑間と黒子以外のメンバーは合点したようにうなずいた。

全中の夏の全国大会が始まった。帝光は「キセキの世代」の活躍で、向かうところ敵なしで勝ち進んだ。しかしそれは青峰らの個人プレーの賜物であり、誰がどれだけインできるか試合中に競うといった趣向で試合は進み、黒子などははじき出された様子で、試合中も孤立していた。要するにチーム一丸となって戦うのではなく、個人個人のプレーでの競争という赤司の提案に精神的についていけなくなったのである。赤司の提案も帝光が特別強いチームであったから、できたことであった。またメンバーも己が力を持て余しているところがあった。青峰と紫原は特にそうで、何か憎しみをぶつけるように、ダンクシュートを立て続けに決めた。それも練習に出ていなくても、立派に試合ではやってみせるという監督への筋を通すためであった。

去年の試合で当たっていた中学と当たった因縁の試合で、黒子は帝光の攻撃に焦った選手から頭をボールで殴るペナルティをくらい、怪我をしてしまった。それもまた赤司の提案した個人プレーや煽りの余波と言える。試合を見ていた黒子と文通していた明洸中の萩原は、気になるので黒子が収容された救務室にまで見舞いに来た。ちょうど赤司もその前に立っていた。赤司は言った。

「君は?」

「明洸中の萩原と言います。黒子くんがけがをしたみたいなので。時にあんたら、よくあんなバラバラな試合をしますね。それで黒子は殴られたんじゃないですか?」

「個人の実力を抑えるやり方はうちはしていないのでね。勝つためには。」

「それでバスケットが面白いんですか?楽しくないバスケなんてやっていて意味があるんですか?」

「・・・・・なるほど。そういう考え方もあるか。楽しくないとやってはいけないと言うのか。」

「勝ち負け以上に大切なことがあんだろ?あんた、黒子に謝れよ!」

「・・・・面白い。覚えておこう。」

部屋で黒子と面会している萩原にはそれ以上何も言わず、赤司は選手控えに戻って言った。

「次の試合の明洸戦には、黒子は出場できないな。」

緑間は無言だった。彼は黒子のバックアップにできるだけ回っていた。孤立していては、黒子は影として使われることはないからだ。紫原たちが言った。

「そろそろ点取りゲームも飽きてきたんだよね~。ミドチン、おは朝の今日の星座のラッキーナンバーは何?」

「1だな。験がいい数字だが。」

「じゃーそれで行こうか。ねえ峰っち?」

「んあ?」

「ゾロ目でそろえようよ。まあ相手の出方にもよるけどさ。赤ちんはどう~?」

赤司はその時ためらった。紫原の言う意味は彼にはすぐにわかった。スコアのゾロ目ぞろいは、こういう試合をしているやつの間で、なかば神聖化している数字である。験がいいというだけの話だが、皆のやる気が出る数字だ。その時、赤司は心の底で思った。古賀の前で言ったあの「日本一」という自分の言葉だった。今はまだ全中での試合にすぎない。中学レベルなのだ。それでも、同じ「1」でそれは魅力的な話だった。彼にはその時そう思えた。それで本来なら主将としてたしなめないといけないところを、彼は止めなかった。

「・・・いいだろう。好きにやってみせろ。」

と、赤司は言った。

試合開始で、救務室から桃井に付き添われて出てきた黒子は、しばらく選手控え席から見ているうちに、わなわなと震えだした。

「この試合は・・・何か変です・・・。皆が本気でやっていないし・・・・。」

「え・・・・?」

「点数の取り方がおかしいです。ほら、今もペナルティで・・・。」

桃井はスコアボードを見た。明洸とは力の差がありすぎるのは明白だったが、それでも何かおかしい。「1」という数字が並んでいる。まさか、ゾロ目ねらい?桃井もその話は聞いたことがあった。黒子は耐えられないように叫んだ。

「萩原くんに申し訳なくて・・・・!大会で、正々堂々と一緒にやろうって言ったんです。なのに、僕は欠場していて、しかもこんな試合・・・・・・・!」

「黒子くん・・・・!」

桃井はその試合を最後まで見ていられなかった。こんなことをする人たちとは思っていなかった。その中心に赤司がいるのが耐えられなかった。

大会では優勝したが、その後の学校に戻っての反省会では黒子を中心としたつるし上げ大会となった。黒子がこの明洸戦のことを絶対に許さないと言ったからである。

「僕はあんな試合は認めません。どういうつもりか知らないけど・・・弱い者をいたぶって、面白がって、そんなのはスポーツマン精神に反します。」

「おいおい、謝ってもらいたいのはこっちだぜ。なんで強い方が試合を楽しんじゃいけねーんだ。」

「青峰くん。」

桃井の言葉に青峰はそっぽを向いてふてくされた。赤司は黒子に言った。

「漫然と点数を取るよりは集中できた。試合をコントロールしただけだ。」

「コントロール?そんなのは人間的なことじゃないです。」

「友達だから手加減しろと言いたかったのか。」

「違います。僕の言いたいのはそういうことじゃなく・・・情のないバスケットだということです。」

緑間は言った。

「対戦相手に友達がいたとはな。そういう話は事前に言ってもらいたかったのだよ。」

「友達がいるから本気で当たれないことこそ、スポーツマン精神に反するな。」

赤司の言葉に、黒子は涙をこらえ肩を震わせて答えた。

「・・・・もう、いいです。僕はクラブをやめます。」

黒子の精いっぱいの抵抗だった。その週、黒子は監督に退部届を提出した。

桃井は黒子の言葉に身を切られるような思いがした。クラブは今や皆がばらばらだった。楽しいクラブだったはずなのに、どうして・・・・。そして赤司が確かに以前とは変化していた。以前はこんなことを言う人ではなかった。黒子にも何度も優しく指導してくれていた。一体どうしてなの。そう桃井は思った。それでも自分はまだ赤司のことを好きなの?桃井は自分自身への問いかけに答えられなかった。卒業はもうすぐそこに迫ってきていた。